昨年の『缶詰時報』に、黒川勇人氏の「ツナ缶を巡る長い旅」という記事があります。
前編 2025年5月号
後編 2025年6月号
そこで主張されているのが、ツナ缶アメリカ発祥説です。 知ってびっくり! 「ツナ缶」の意外な真実とは - 日本経済新聞
黒川氏は、2022年の時点では「ツナ缶の歴史は古い。1860〜70年ごろフランスで発祥した、とされている。」と書かれていました。
ツナ缶の発祥は19世紀ヨーロッパというのが通説だと思われます。
ただし、俗説としてはアメリカ発祥説が多くみられます。
資料については、以前書いた記事をご覧ください。 ツナ缶の起源は19世紀ヨーロッパ
加筆予定の記事リスト(上記記事に加筆予定の内容を載せています)
黒川氏は次の三点の資料を挙げています。
フランスの缶詰メーカー〈ラ・ベル・イロワーズ〉のサイト
〈ロサンゼルス保護協会〉という,カリフォルニア州ロサンゼルス郡にある歴史保存団体のサイト
〈サウスベイの歴史〉というブログ
原題やURLが書かれていないのですが、以下のページだと思われます。
Comprendre la question du thon
Taking Tuna Mainstream - LA Conservancy
Albert Halfhill: The man who transformed once-lowly tuna into the “Chicken of the Sea” – South Bay History
〈ラ・ベル・イロワーズ〉のサイト
Comprendre la question du thon
19世紀フランスのツナ缶に関しては多くの情報があるので、あまり詳しいことが書かれていない缶詰メーカーのサイトを根拠にそれを否定するのは難しいと思います。
それに、実は19世紀フランスのツナ缶を否定してもアメリカ発祥ということにはならないのです。
〈ロサンゼルス保護協会〉
Taking Tuna Mainstream - LA Conservancy
〈サウスベイの歴史〉
Albert Halfhill: The man who transformed once-lowly tuna into the “Chicken of the Sea” – South Bay History
これらのサイトの情報には、ツナ缶アメリカ発祥説の検討において重要な情報が欠けています。
1903年にイワシの不漁でほかの魚を検討している際に、A・P・ハーフヒルがイタリアのツナ缶を見つけたというエピソードです。
最近見つけた古い資料を紹介します。
[テキスト] Pacific fisherman. Year book, 1918-24. - Text-only - Full View | HathiTrust Digital Library
[ 画像 ] #359 - Pacific fisherman. Year book 1918-24. - Full View | HathiTrust Digital Library
Mr. Halfhill led in the selling of his sardine pack on the road, and in the year of the sardine failure, 1903, he cast about for some other sea food to keep his plant running. While on the road he picked up a can of Italian tunny, brought it to the plant and said to his associates, "We must find something like this to pack." Then Mr. Halfhill began his experiments in packing fish that were found in plenty off the Southern Califor- nia coast-rock cod, albacore and halibut.
この資料は『Pacific fisherman』の年鑑で、たぶん1923年版だと思われます。
次のように書かれているので、当時存命だったA・P・ハーフヒル(1924年没)に直接話を聞いているようです。
The story of the sensational rise to favor in the eyes of the American people of canned albacore was related to a correspondent of the Pacific Fisherman by Mr. Halfhill, the father of the tuna packing industry.
A・P・ハーフヒルがヨーロッパのツナ缶を参考にしたという話は、日本の書籍にも載っています。
Googleブックスで検索すると、『日本缶詰史 第ニ巻』には次のようなことが書いてあるようです(複数回の検索結果をつなぎ合わせています)。
まぐろ油づけかん詰の起源について、これを明確に伝えた文献は見当らない。しかし一八六○年―一八七○年ごろ、フランスのいわし油づけかん詰業者がいわし原料漁獲の合間に、ビスケー湾で獲れるびんながまぐろを原料として、まぐろ油づけかん詰を製造したのがその発祥といわれ、一八九三年ごろの製造中心地はサーブルドロンヌであったという。(馬場孟夫著『鮪の研究』より)地中海のサルジニア島あるいはシシリー島を発祥の地とする説もある。
その時同地の業者ハーフヒル( A. P. Halfhill )は、イタリアやフランスで製造されているまぐろ油づけかん詰にヒントを得て、アルバコアを原料とするまぐろ油づけかん詰製造を思いついた。
ツナ缶の発祥をアメリカとするためには、A・P・ハーフヒルがイタリアの輸入ツナ缶を見つけたというエピソードなど、すでにイタリアにツナ缶が存在していたことを否定する必要があります。
しかし、「ツナ缶を巡る長い旅」では、イタリアのツナ缶の件は取り上げられていません。
19世紀にヨーロッパでマグロの缶詰が生産されていたことは事実であろうと思われます。
その上でツナ缶アメリカ発祥を言える可能性があるとすれば、
現在の「ツナ缶」の製法に近いものの発祥はアメリカ
大量生産品としてのツナ缶の発祥はアメリカ
の二点でしょうか(実際にどうなのかは調べていないので、あくまで可能性ということですが)。
その場合も、ヨーロッパのツナ缶に関する資料との比較検討が必要になります。