原作改変と原作者


「NHKの訴え棄却 原作のドラマ化契約解除巡り東京地裁:朝日新聞デジタル」
(リンク切れ)http://www.asahi.com/articles/ASH4X4JQJH4XUCLV009.html

テレビドラマで原作を改変しようとしたことに関する裁判で、NHKが敗訴したことが話題になっています。

こちらは2012年の提訴の時点での記事です。
消えた辻村深月原作ドラマ――NHKと講談社が訴訟騒動に 日経トレンディネット


原作改変と原作者の問題について、ほかの例を調べてみました。
映画『やわらかい生活』の裁判に関するページが、契約などに関する資料が充実しています。

『原作と同じじゃなきゃダメですか?―映画『やわらかい生活』脚本の「年鑑代表シナリオ集」 への原作者による収録・出版拒否事件 全記録』 を読む: See-Saw日記
まず「著作権使用予約完結権契約」という、原作を「押さえる」契約を結び、そのあとで改めて脚本をチェックしてもらうという流れのようです。

「二次的」ゆえの限界。 - 企業法務戦士の雑感
『やわらかい生活』の原作使用許諾契約では次のようになっていたようです。

第5条(著作者人格権の尊重)
1 ステューディオスリーは,第3条各項の利用に当たって,本件小説の内容,表現又は題名等,文藝春秋の書面による承諾なしで変更を加えてはならない。
ただし,映画化に際し,文藝春秋は,より適切な映像表現をする目的でステューディオスリーが本件小説に脚色することを認めるが,その程度は,事前にステューディオスリーが文藝春秋に提出する本件小説の使用範囲,方法,脚色計画の範囲を超えないものとする。
2 ステューディオスリーは,本件映画のプロット及び脚本を完成後,直ちに文藝春秋に対し3部提出し,本件映画のクランク・イン前に文藝春秋の了解を得るものとする。
3 文藝春秋は,本件映画が本件小説のイメージ又は著作者人格権を損なうと認めるときは,これに異議・修正を申し立てる権利を有する。

その他の関連ページ
「『やわらかい生活』裁判を考える会」後篇 - 文化通信.com
日本ユニ著作権センター/判例全文・2011/03/23


ハリウッド映画では、この問題はどうなっているのか?

ハリウッド映画『ATOM(アトム)』制作裏話(後編)和製ヒーローが世界で羽ばたくために
上記ページには、「ハリウッドは絶対に、原作者が脚本を確認して口出しする権利を認めないのです。」とあります。
元々権利がないということではなくて、口出しする権利を認めない契約を結ぶことが多いということのようです。

オプション・アグリーメントの交渉ポイント~小説を映画化する場合を例に~ 松島恵美|コラム|骨董通り法律事務所 For the Arts
PRODUCER HUB ≫ Blog Archive ≫ オプションアグリーメント~小説の映像化の場合~
こちらの文書では、口出しする権利(クリエイティブコントロール)について、「残念ながら、実際のハリウッドのスタジオとの交渉では、彼らのプロパティに見出す価値にもよるが、クリエイティブコントロールを具体的に獲得するのが困難な場合が多い。」と書かれています。


以下、原作者が原作改変を問題とした例を紹介します。

1931年 『三文オペラ』 原作:ベルトルト・ブレヒト
ゲオルク・ヴィルヘルム・パープスト - Wikipedia
ブレヒトがネロ・フィルムを提訴。

1962年 『僕たちの失敗』 原作:石川達三
二瓶和紀・宮田ただし『映像の著作権』によれば、日本文藝家協会と日本映画製作者連盟の間で覚書が交わされ、「映画化の許諾を得た映画会社は事前に必ずシナリオを著者に提示すること」などが申し合わされたそうです。

1964年 『メリー・ポピンズ』 原作:パメラ・トラバース
ニール・ゲイブラー『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』には、「トラバースが自分で脚本を検閲し承認することを主張した」などの記述があります。
映画『ウォルト・ディズニーの約束』がこの件を取り扱っています。

1969年 『信子とおばあちゃん』 原作:獅子文六(『信子』『おばあさん』)
「NHKの暴挙」を昭和天皇に「直訴」(牧村健一郎『獅子文六の二つの昭和』で、飯沢匡対談集『遠近問答』の関連部分が紹介されています)。

1984年 『ネバーエンディング・ストーリー』 原作:ミヒャエル・エンデ
ネバーエンディング・ストーリー - Wikipedia
ウィキペディアによれば、「裁判騒動の発端は、契約書の見落としが原因だったと言われている」そうです。

2005年 『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』 原作:クライブ・カッスラー
『サハラ』の原作者が映画版に対し訴訟 - シネマトゥデイ

2011年 『ハガネの女season2』 原作:深谷かほる
「ハガネの女」ドラマでトラブル 漫画家が異論唱え原作者降りる : J-CASTニュース

2015年 『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』 原作:E・L・ジェイムズ
【ELLE】『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の監督、原作者と大バトル?|エル・オンライン