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2014年 6月20日
「汚名挽回」という言葉が誤用なのかどうかは、これまでもずっと話題になってきました。昨年(2013年)話題になった時には、わたしも記事を書いています。
今回の話題がこれまでと違うのは、『三省堂国語辞典』の編集委員である飯間浩明氏がツイッターで「誤用ではない」と明言したことです。飯間氏のツイートやこれまでの議論が次のページでまとめられています(わたしの記事も紹介していただいていました)。
「汚名挽回」は誤用ではない~誤用とされてきた歴史まとめ - NAVER まとめ
上記まとめが作成されたあとにできたページとしては、次のものが重要です。昨年(2013年)書いた記事に情報を寄せていただいたkumiyama-aさんによる用例調査で、「汚名挽回」の古い用例に興味のある方は必見です。
「汚名挽回」の用例 (19世紀末~) - メモ 2013.10.10~
飯間氏のツイートが話題になっていることを受けて、『とくダネ!』が取材を行いました。また、個人で『大辞泉』に問い合わせをした方もいます。飯間氏は問い合わせの回答に関してもツイートしています。
御用だ誤用だ : J-CASTテレビウォッチ(『とくダネ!』の内容紹介)
汚名 とは - コトバンク(デジタル大辞泉)
汚名挽回について問いあわせてみた::シマウマ日記
「汚名挽回」誤用派の代表のように見られてきた「大辞泉」は、次期バージョンアップから、誤用説・非誤用説を併記することになったようです http://t.co/ZaTcV754M4 。両論併記ではまだ不徹底と思いますが、柔軟な方針転換には、率直に敬意を表します。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2014, 5月 18
文化庁「国語に関する世論調査」では、毎回、二択の設問がありますが、以前は一方を「本来の言い方」と表現していた。ところが平成17年度から「本来の言い方とされるもの」という表現が表れ、22年度から「辞書等で本来の意味とされるもの」になった。文化庁は本来か否かの判断を避けているわけ。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2014, 5月 18
「大辞泉」が「汚名挽回」の説明を変更するのは歓迎しますが、そこで文化庁調査を引用するにあたり〈本来の言い方である「汚名返上」〉〈間違った言い方「汚名挽回」〉とするのはよくない。文化庁は正誤判断を避け、「間違った」とは書いていません。不正確な記述は新たな誤解を生みます。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2014, 5月 18
以下に紹介するように、毎日新聞、NHK、よみうりテレビアナウンサー道浦俊彦氏は、「汚名挽回」は誤用としています。フジテレビの『とくダネ!』では、誤用ではなさそうだが自分たちは使わないというような立ち位置でした。
以前の記事で紹介したのですが、次のページのmatchboxtwenty氏による回答:No.14に、2004年当時の「十数年も前」に議論が行われ、民放各局で使われなくなったという興味深い話があります。
「汚名を挽回する」という表現は間違いでしょうか(2/4) | 国語のQ&A【OKWave】
各紙が衆院選の情勢調査を行っています。毎日新聞でも掲載していますが、その原稿中に「劣勢を挽回したい考え」という表現が。これではよくある誤用の「汚名挽回」と同じで、劣勢に戻してしまうことになります。「劣勢を」を削って「挽回したい考え」と直しました。〔信〕
#532; 毎日新聞・校閲グループ (@mainichi_kotoba) 2012, 12月 7
「汚名挽(バン)回」は正しい? | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所
道浦俊彦
YTV -よみうりテレビ-「道浦俊彦の読書日記」 『続弾 問題な日本語』(2005年)
『三省堂国語辞典のひみつ』(飯間浩明、三省堂:2014、2、20) | 道浦俊彦(ytvアナウンサー)『道浦俊彦TIME』
飯間氏のツイートにある文化庁調査は次のもので、調査時期は2005年の1月14日~2月7日です。
平成16年度「国語に関する世論調査」の結果について
この調査で「汚名挽回」に関しては、次のようになっています。
(a) 前回失敗したので今度は汚名挽回しようと誓った
(b) 前回失敗したので今度は汚名返上しようと誓った
(a)の方を使う ・・・・・ 44.1%
(b)の方を使う ・・・・・ 38.3%
(a)と(b)の両方とも使う ・・・・・ 7.2%
(a)と(b)のどちらも使わない ・・・・・ 7.5%
分からない ・・・・・ 2.9%
全体のデータのほかに年齢別のグラフがあり、その一部を表にすると次のようになります(一番右の欄については後述)。
汚名挽回 | 汚名返上 | 0~9歳 | |
60歳以上 | 44.0% | 34.0% | |
50~59歳 | 48.7% | 35.5% | 1955年 |
40~49歳 | 50.0% | 34.2% | 1965年 |
30~39歳 | 45.4% | 43.2% | 1975年 |
20~29歳 | 30.5% | 49.0% | 1985年 |
16~19歳 | 22.9% | 61.4% |
40歳代は、「汚名挽回」の方を使うと答えた人の割合が最も高く50%です。年齢別のグラフでは「(a)と(b)の両方とも使う」のデータがないので、100%からほかの数字を引いて計算すると9.1%となり、合計すると「汚名挽回」を使う人が59.1%となります。自分では使わないが間違いだとは思わないという人もいるでしょうから、間違いだと思わない人の割合はもっと高いかもしれません。
上記の表の一番右の欄は、それぞれの年代の人が0~9歳だった年です。
この調査が行われた2005年から40年前の1965年には、40歳代の人は0~9歳で、言葉を習得する時期です。このことから考えると、1960年代ごろが「汚名挽回」使用のピークで、1980年代から90年代にかけて使用が激減していったのではないかと思われます。
前回の記事では締めに次のように書いたのですが、自信がなくなってきたので、とりあえず取り消しておきます。
Googleブックスで大まかに調べた感じでは、「汚名挽回」がじわじわと普及していったのに対し、「汚名返上」「名誉挽回」は1950年代の時点でかなり普及しているようです。この普及時期の差が規範意識の形成に関わっているのかもしれません。
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