例文「そんなことをするなんて確信犯だ。」は回答を誤誘導しそうです
文化庁の「国語に関する世論調査」が「確信犯」を取り上げました。前回取り上げたのが平成14年度なので、13年ぶりになります。
前回の世論調査の「確信犯」については、2004年に書きました。
前回の調査結果は次のようになっていました。
(3)確信犯 例文:そんなことをするなんて確信犯だ。
〔全体〕
(ア) 政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 ・・・・・・ 16.4% (イ) 悪いことであると分かっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 ・・・・・・ 57.6% (ウ) (ア)(イ)両方 ・・・・・・ 3.9% (エ) (ア)(イ)とは全く別の意味 ・・・・・・ 3.3% (オ) 分からない ・・・・・・ 18.8%
文化庁は、(ア)が「本来の意味」なので、「約6割が意味を誤って理解」としています。しかし、この例文だと(ア)は選びにくいのです。
前回も紹介しましたが、丸谷才一氏が『ゴシップ的日本語論』(2004年)で指摘しているように、「そんなことをするなんて確信犯だ。」という例文は、(イ)の「意味にぴつたり」です。
さらに言えば、(イ)の意味にぴったりと言うだけでなく、(ア)の意味には取りにくいと思います。
「そんなことをするなんて確信犯だ。」の「確信犯」の部分を、誤用の意味と本来の意味とで言い換えてみると、
「そんなことをするなんて、ほんとは悪いことだと分かってやってるだろ。」
だと自然ですが、
「そんなことをするなんて、信念に基づいてやってるだろ。」
だと不自然です。
(「そんなことをするなんて」に怒っているニュアンスを感じるので、文末は「だろ」にしてみました。)
「そんなことをするなんて確信犯だ。」という文には文脈が存在しないので、意味を断定することはできません。
しかし、「そんなことをするなんて」に怒っているニュアンスを感じ、それを受けた「確信犯だ」をツッコミと捉えるならば、(ア)は選べないのです。
このように「そんなことをするなんて確信犯だ。」という例文には回答を誤誘導する問題があると思うんですが、今回の調査でも同じ例文が使われていました。
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今回「確信犯」について検索したら、次の論文が見つかりました。
佐々木文彦「「確信犯」の意味・用法の変遷について ─誤用から意味変化へ─ 」
『明海日本語 第19号 (2014年)』の65-79ページに収録されています。