「deaf」という言葉は使っても大丈夫らしい

リンク先の記事に、「聴覚障害」は英語で何と言うかという話がありました。それに関してブックマークコメントと記事コメント欄で少し書いたのですが、もう少し付け加えてまとめておきます。

www.watto.nagoya

上記記事のブコメで『セサミストリート』に触れているかたがいらっしゃいましたが、わたしも、『セサミストリート』で「deaf」という言葉が使われていたのが強く印象に残っています。今回「deaf」について調べてみる気になったのも、『セサミストリート』で使われているんだったら使っても大丈夫な言葉なんじゃないか?と思ったからです。

調べてみると、日本語のページでは、『英辞郎』に結構詳しい説明がありました。
「deaf」について、「この概念は、かつてhearing-impairedと言い換えられた。その時点ではdeafという語は不適切だと主張された。」と書かれています。
どのような立場の人が「不適切だと主張」したのかがはっきりしないのですが、ほかのページの情報によれば、当事者であるDeafコミュニティーは、早い時期から「hearing-impaired」という言い換えを受け入れてはいなかったようです。
ちなみに、「deaf」と違って「deaf-mute」は、現在「不適切な用語」です。
deafの意味・用例|英辞郎 on the WEB:アルク
hearing-impairedの意味・用例|英辞郎 on the WEB:アルク
deaf muteの意味・用例|英辞郎 on the WEB:アルク

Community and Culture - Frequently Asked Questions | National Association of the Deaf
全米ろう協会のFAQページです。各種用語の解説があります。

伊藤泰子「聞こえない人と呼ぶことは何が悪いか」(What’s wrong with the calling name “hearing-impaired”?)

Introduction to American Deaf Culture - Thomas K. Holcomb - Google ブックス
44ページの「Hearing-Impaired」の項に、この用語が作られたがDeafコミュニティーは受け入れなかったことが書かれています。

The Deaf Community in America: History in the Making - Melvia M. Nomeland, Ronald E. Nomeland - Google ブックス
74ページに、「hearing impaired」は1970年代には「politically correct term」だったと書かれています。

「共感的羞恥」は中国語では「尴尬症」(学術的には「共情性尴尬」)


日本では、去年から今年にかけて、共感的羞恥(共感性羞恥)という学術用語が広く知られるようになりました。「empathic embarrassment」の訳語です。
この感情については以前からネットで語られていましたが、「共感的羞恥」という用語は知られていませんでしたし、独自に名前がつけられることもありませんでした。

それに対し中国では、学術用語とは別に「尴尬症(尴尬恐惧症)」という名前が付いています。近年できたネット用語のようで、次の二つのページに説明があります(『人民中国』のコラム「流行語掲示板」では、ほかに、傲娇(ツンデレ)、反差萌(ギャップ萌え)、壁咚(壁ドン)なども取り上げています)。
尴尬症_人民中国
キーワードチャイナ 尴尬(gān gà) 決まりが悪い 気まずい - 娱乐日语 - japan.visitbeijing.com.cn

「尴尬症」とは別に、2014年のこちらの論文では、「Empathic Embarrassment」の訳語として「共情性尴尬」という言葉が使われています。
文章摘要信息--观点采择对共情性尴尬的影响:共情反应与尴尬类型的不同作用

次の記事では、重慶医科大学付属第一医院精神科の医師が、尴尬恐惧症(尴尬症)について、「学术上并不存在(学術上は存在しない)」と答えています。精神医学と心理学の守備範囲の違いもあるのかもしれませんが、「empathic embarrassment」という用語は、中国でもあまり知られていなかったようです。
尴尬恐惧症上身 别人出丑自己却感同身受-中新网

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redditのAMA「日本でアニメのディレクターになったけど質問ある?」


redditに興味深いスレッドがあったので紹介します。はてなブログからはredditにリンクできなくなっているので、URL表記にしておきます。

www.reddit.com/r/anime/comments/ysgh2/in_2003_i_decided_to_move_to_japan_and_follow_my/
タイトル「In 2003, I decided to move to Japan and follow my crazy dream of working in the anime industry. I eventually became a director. AMA!


こちらは関連スレッドです。
www.reddit.com/r/TrueAnime/comments/28gmmb/last_year_my_wife_and_i_decided_to_quit_our_jobs/
タイトル「Last year my wife and I decided to quit our jobs in the animation industry to start our own animation studio. Our goal is to combine the best qualities of Japanese and Western animation. AMA!」

redditは、大雑把にいえばアメリカのネット掲示板です。
reddit - Wikipedia

AMAというのはAsk Me Anything(なんでも聞いてね)の略で、日本の「○○だけど何か質問ある?」のようなものです。有名人のAMAは、日本でも話題になることがあります。
「やぁ、ビル・ゲイツだけど何か質問ある?」ということで本人が降臨して次々と回答した全問答まとめ - GIGAZINE

今回紹介するのは、KyaroHimeさんという人のAMAです。演出した作品名が書かれているので本名もすぐわかるのですが、ここではKyaroHimeさんとしておきます。

KyaroHimeさんは、父がアメリカ人、母が日本人という日米ハーフです。南カリフォルニア大学映画芸術学部で修士号を取得したのち日本へ渡り、代々木アニメーション学院卒業後アニメスタジオに入社。動画を経て、『ドラえもん』で6本の演出を手がけています(その後、アメリカに帰国)。

これだけでも十分興味深い経歴なのですが、KyaroHimeさんの本名で検索して驚きました。KyaroHimeさんの前職は女優だったのです。

ウィキペディア英語版やIMDbにKyaroHimeさんの記事がありますが、記載されている出演作はたった三作、映画二本と『新スタートレック』(TNG)の1エピソードです。

ほんの数年間子役として活動しただけにも関わらず、KyaroHimeさんの印象は強かったようで、好きだったのにどこに行っちゃったんだー、というようなことを言っている人が結構います。そんな人達も、まさか日本に行ってアニメーターになったとは想像もつかなかったでしょう(現在では、ウィキペディア英語版やIMDbに『ドラえもん』演出のことも記載されています)。

日本でも、2001年に2ちゃんねるでKyaroHimeさんのスレッドを立てて、「今何してるか知ってる人、教えてください。」と呼びかけている人がいました(この時期は来日の少し前)。

KyaroHimeさんが『ドラえもん』で演出をした当時、名前が少し話題になりました。
2ちゃんねるやブログでは、誰かの変名だろうか?というような推測が語られています。そのまま本名だと受け取ればいいのですが、アメリカ人が『ドラえもん』の演出をしているというのは想定外だったようです。

2006年に「何者なのだろう」と言及していたブログ記事には、6年後の2012年、ある人物のコメントがありました。
「兄です」
お兄さん登場! KyaroHimeさんの経歴を紹介しています。

例文「そんなことをするなんて確信犯だ。」は回答を誤誘導しそうです


文化庁の「国語に関する世論調査」が「確信犯」を取り上げました。前回取り上げたのが平成14年度なので、13年ぶりになります。


前回の世論調査の「確信犯」については、2004年に書きました。

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前回の調査結果は次のようになっていました。

(3)確信犯  例文:そんなことをするなんて確信犯だ。

〔全体〕

(ア) 政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 ・・・・・・ 16.4%
(イ) 悪いことであると分かっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 ・・・・・・ 57.6%
(ウ) (ア)(イ)両方 ・・・・・・ 3.9%
(エ) (ア)(イ)とは全く別の意味 ・・・・・・ 3.3%
(オ) 分からない ・・・・・・ 18.8%


文化庁は、(ア)が「本来の意味」なので、「約6割が意味を誤って理解」としています。しかし、この例文だと(ア)は選びにくいのです。

前回も紹介しましたが、丸谷才一氏が『ゴシップ的日本語論』(2004年)で指摘しているように、「そんなことをするなんて確信犯だ。」という例文は、(イ)の「意味にぴつたり」です。

さらに言えば、(イ)の意味にぴったりと言うだけでなく、(ア)の意味には取りにくいと思います。

「そんなことをするなんて確信犯だ。」の「確信犯」の部分を、誤用の意味と本来の意味とで言い換えてみると、
「そんなことをするなんて、ほんとは悪いことだと分かってやってるだろ。」
だと自然ですが、
「そんなことをするなんて、信念に基づいてやってるだろ。」
だと不自然です。
(「そんなことをするなんて」に怒っているニュアンスを感じるので、文末は「だろ」にしてみました。)

「そんなことをするなんて確信犯だ。」という文には文脈が存在しないので、意味を断定することはできません。
しかし、「そんなことをするなんて」に怒っているニュアンスを感じ、それを受けた「確信犯だ」をツッコミと捉えるならば、(ア)は選べないのです。

このように「そんなことをするなんて確信犯だ。」という例文には回答を誤誘導する問題があると思うんですが、今回の調査でも同じ例文が使われていました。

     *     *     *     *     *

今回「確信犯」について検索したら、次の論文が見つかりました。
佐々木文彦「「確信犯」の意味・用法の変遷について ─誤用から意味変化へ─ 」
明海日本語 第19号 (2014年)』の65-79ページに収録されています。

フランスでもアンゴラウサギの毛をむしるのが問題に


以前書いたアンゴラウサギ記事へのアクセスが微妙に増えていたのですが、フランスでのアンゴラウサギの採毛がニュースになっていました。

リンク先動画 閲覧注意


以前書いたアンゴラウサギ記事はこちらです。
アンゴラウサギの毛をむしりとるのはフランス式らしい
アンゴラウサギの毛をむしること自体には肯定的な意見が結構多い
戦時下日本のアンゴラ兎

これまで書いたように、フランスでは昔からアンゴラウサギの毛をむしっています。
今回のニュースでわかったのは、フランスでも、中国とあまり変わらない乱暴なむしり方が行われていたということです。

#StopAngoraFrance - Tortures pour la laine, assez ! - One Voice
潜入調査を行ったOne Voiceのページ。英語版もあります。

YouTubeには鳴いたり暴れたりせずおとなしく毛を抜かれているアンゴラウサギの動画もたくさんあります。丁寧に毛を抜けばそれほどアンゴラウサギにダメージがないのがわかります。




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『怒り新党』で共感性羞恥(共感的羞恥)が取り上げられました


【追記】
この記事へのアクセスの検索語に「発達障害」がありますが、この記事では発達障害のことは書いていません。
共感的羞恥と発達障害の関連に関する情報をお探しのかたには、リンク先(英語ページ)が参考になると思います。
Empathic Embarrassment Accuracy in Autism Spectrum Disorder(共感的羞恥と自閉症の関連に関する論文)
People with ASD May Be Overwhelmed by Emotions - (iLs) - Integrated Listening Australia(論文の内容紹介)



このブログでは、これまで3回、共感的羞恥について書いていますが、今回はメモ程度です。
あの恥ずかしい気持ちには名前があった
「共感的羞恥」論文リスト
恥をかくシーンが苦手という感情は、どのように語られてきたか

【怒り新党】『共感性羞恥』というあの現象→分かる分からないで盛り上がる人々「ツイッター民に多い気がするのはなぜだ」 - Togetterまとめ


8月24日の『マツコ&有吉の怒り新党』で「共感性羞恥」が取り上げられました。「empathic embarrassment」は、論文では「共感的羞恥」と訳されています。

精神科医ゆうきゆう氏は、「はじめて聞く用語」と語っています。


番組のアンケートでは、共感性羞恥の経験あり10.4%、経験なし89.6%です。

ツイッターでもアンケートが行われ、結果は次のようになっています。


次のページの大学生へのアンケートでは、経験ありが49.3%です。
「怒り新党」で話題の「共感性羞恥」って知ってる? 経験したことがある大学生は〇割 | ネタ・おもしろ・エンタメ | 大学生活 | マイナビ 学生の窓口

カトゆーさんが共感的羞恥に関して書かれるらしいので楽しみです。

ちなみに、昨年までほとんど知られていなかった「共感的羞恥」という言葉を発見して広めたのはカトゆーさんです。

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はてなブログからredditにリンクできなくなってました


『怒り新党』で共感性羞恥(共感的羞恥)が取り上げられ、「あの恥ずかしい気持ちには名前があった」へ多くのアクセスがありました。
関連記事である「恥をかくシーンが苦手という感情は、どのように語られてきたか」へのリンクを付け加えておこうと思って編集したのですが、「記事を更新する」のボタンを押すと「Bad Request」と表示されてしまいます。

原因がわからなかったので検索してみると、redditなどへのリンクができなくなっているという情報がありました。

しかたないのでredditへのリンクをURLの表示に変えようとしたのですが、それでもBad Requestになります。
新規記事だとURL表示はできるらしい(確認はしてません)のですが、redditへのリンクがある旧記事は、URL表示への変更を含め、まったく更新ができなくなっているようです。

参考リンク:

apicodes.hatenablog.com

voya.hatenablog.com