先日のインドのレイプ殺人事件とパンチャーヤトのことなど


先週、このような報道がありました。
16歳少女、レイプされた翌日に火を付けられ殺害される インド 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

詳しいことがわからないので、英語記事を探して読んでみたら、余計に事情がわからなくなりました。

'Lover' murder after panchayat insult - Telegraph India
「the girl and boy admitted to be in love」
こちらの記事には、主犯と被害者が恋人だったとあります。

Jharkhand: Humiliated by panchayat’s fine, rape accused sets minor victim on fire; 15 arrested | The Indian Express
「the accused and the victim accepted that they liked each other」
こちらの記事にも、二人が親しかったことが書かれています。

AFP記事へのブックマークコメントには、事件にカーストが関わっているのではないかという意見がいくつか見られます。
『Telegraph India』の記事には、主犯と被害者の双方がダリット(カースト外の不可触民)で、主犯は「also a Dalit but perceived to be socially higher」とあります。

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犯罪報道において、容疑者や被害者のカーストに言及することが、どの程度許容されているのかはわかりません。
ただ、インドの犯罪において、カースト、少数部族、宗教(ヒンドゥー対イスラム)などの問題に触れないと構造がわからない場合が多いのは確かです。

次のアムネスティの記事(2015年の事件)では、本人の同意を得たうえのことだろうと思いますが、被害者がダリットであることが書かれています。
反差別という立場から、事件の構造を明確にする必要があるのだと思われます。
インドの村の長老会 男たちに姉妹の強かんを命令 : アムネスティ日本 AMNESTY

|インド|ダリットの声なき声を主流メディアに持ち込む闘い - INPS International Press Syndicate - JAPAN

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AFP記事の「村議会」というのは、パンチャーヤトと呼ばれているものです。

わたしがパンチャーヤトのことを知ったのは、4年前の次の事件です。
恋人と密会した女性に「集団レイプの刑」、インド村議会 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
集団レイプの刑を命じたインドの村、自治組織「パンチャヤット」とは 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

パンチャーヤトには種類の違いがあるようです。
次のページでは、「同じくパンチャーヤトの名で知られているインド農村部での正式な地方自治・行政機構と非合法な(慣習的な)パンチャーヤト」のうち、前者について解説されています。
地方住民の政治参加を促すパンチャーヤト制度――インドの「進んだ」地方自治・行政組織 / 森日出樹 / 文化人類学 | SYNODOS -シノドス-

パンチャーヤトには、保守との関わりもあれば、左翼との関わりもあります。
保守から見たパンチャーヤットの価値は伝統で、左翼から見た価値は草の根自治ということのようです。

ただし、パンチャーヤトの伝統には、作られた伝統という面もあるようです。
ガンディー思想における中世インド的な要素
この論文では、その点について、次のように書かれています。
「イギリスが破壊したと見なしたインド古来の村落自治組織であるパンチャーヤトの再建を通して、村落を建て直そうとした」
「つまり、歴史的には、ガンディーが思い描いていたようなパンチャーヤトは、実際に、近代以前、 即ち中世に存在していたかは疑わしいのであるが」

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日本で報道される海外の事件は、情報が少なく事情がよくわからないことがあります。
事情を調べてみた例を、以前書いた記事から二件紹介します。

レイプ訴訟なのに「結婚の約束を得たために数回、性交渉を持った」とあって事情がよくわからなかったので、調べてみました。

近所の少年が死亡したことを魔術で殺したと疑われ、女性が火あぶりになったという事件です。
報道では、死亡した少年と火あぶりの被害者が親子だと誤訳されています。
また、魔術で殺したという自白が拷問中になされたという重要な点にも触れていません。

「魔術使った」と女性を火あぶり処刑、パプアニューギニア 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

20歳女性「火あぶり処刑」で男女2人を逮捕、パプアニューギニア 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
続報では、「6歳の息子を魔術で殺害した疑いをかけられた」から「6歳の少年を魔術を使って殺したとの疑いをかけられた」に変わっているので、誤訳には気付いたみたいなんですが、元記事はそのままになっています。

【パプア】魔術を使ったとして、20歳女性が火あぶりの刑で公開処刑・・丸裸で縛られ、生きながら火をつけられる
2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のスレッドでは、誤訳に基づいた被害者叩きをする人もいました。まさに魔女狩りです。
一方、ちゃんと英語記事を確認する人もいて、スレッド終盤の933で誤訳が指摘されています。