「ヨシダアキラ」事件に関するメモ

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取り上げるのはこの件です。

日本人を装っていたマーベル・コミックの新編集長が物議、本人が声明を発表 - Marvel Comics
日本人になりすましていたマーベルの新編集長 アメコミ界で賛否両論

日本語の情報が少ないので、英語ページを色々と読んでみました。
「文化の盗用」(cultural appropriation)に関してはよくわからないので、それ以外の点について簡単に情報と感想をメモしておきます。

英語記事で重要なのは、『Bleeding Cool』の記事と、『CBR』の2005年のインタビュー記事です。
New Marvel Comics EIC C.B. Cebulski Admits He Wrote As “Akira Yoshida” 13 Years Ago
Akira Yoshida: A Bullet For Marvel's Young Guns | CBR

わたしは、「文化の盗用」についてはよくわかりませんし、マンガ家などがフィクションの経歴を掲げるのもそれほど問題だとは思いません(ノンフィクション作品などで、当事者性が不可欠な場合は別ですが)。それでも、この件に関しては、いくつか気になる点があります。それは、多くの人がすでに指摘していることですが、次の三点です。

1. フィクションの経歴に他人を巻き込んでいるのではないか?
2. 仕事を得るのにフィクションの経歴を利用したのではないか?
3. マーベル社の規則に違反しているのではないか?


1. フィクションの経歴に他人を巻き込んでいるのではないか?

「ヨシダアキラ」のインタビュー記事では、水野良氏や麻宮騎亜氏と知り合いであることが述べられています。知り合いでない人物を勝手に知り合いだとしてしまったのなら問題があります。しかし、この部分がフィクションなのかどうかはっきりしません。
セブルスキー氏は、麻宮騎亜氏の作品や水野良氏原作作品の翻訳出版に関わっており、まったく縁が無いわけではありません。語られた経歴は基本フィクションなのですが、若干事実が混じっている可能性もあります。
Nadesico. Kia Asamiya, writer and artist. ; [translation by C. B. Cebulski & Noriko Furuhata] - Details - Trove
Record of Lodoss War: The Grey Witch (manga) - Anime News Network


2. 仕事を得るのにフィクションの経歴を利用したのではないか?

『Bleeding Cool』の記事には、マーベル社の重役から聞いた話として次のようなことが書かれており、ヨシダアキラは、単にストーリーが面白いということではなく、外国人だからこそ評価されていたらしいことがわかります。

This was surprising — Marvel executives I talked to at the time told me that Yoshida was a rarity. He was someone from non-English speaking country who could write well for an American audience — something Marvel had struggled with in the past when seeking authentic voices.


外国人だからこそ評価されたことをアファーマティブ・アクションと見る意見もありますが、マーベル社がヨシダアキラに求めていたのは、日本という異文化の「authentic voice」を作品作りに活かせる専門家ということではないでしょうか。それに、アファーマティブ・アクションであれば、外国人である日本人より日系アメリカ人を採用しそうですし。

日本人だからこそ評価される仕事を日本人を装って得たのだとすれば問題があります。
ただし、『CBR』のインタビュー記事は、すでにライターとして活躍している時期のものです。仕事を始める時点で日本人であることをアピールしたり出版社側の確認に嘘をついたりといったことがあったのかどうかはわかりませんでした。
仮に、ヨシダアキラというペンネームと作品の内容だけで本物の日本人だと判断したのだとしたら、判断した出版社のほうに問題があるような気もしますが、これは判断が分かれる点かもしれません。

セブルスキー氏の日本に関する知識に関して次の記事は、「日本は主要な五つの島から成り立っている(Japan is made up of five main islands)」といった「日本人のライターならしないような多くの間違い(a number of mistakes no Japanese writer would make)」について指摘しています。
Marvel Editor-in-Chief Admits He Used Japanese Pseudonym to Circumvent Company Policy | Hollywood Reporter

また、以前話題になった、店に入るウルヴァリンが「IRASHAIMASE」と言ってしまう作品が、セブルスキー氏の作品だったようです。もっとも、日本人ではないウルヴァリンが勘違いをしていると考えれば、必ずしも不自然ではありませんが。

ヨシダアキラ事件の記事で紹介されていた、当事者性が大きな問題となった架空の被爆者詩人アラキ・ヤスサダについて、関連ページをリンクしておきます。
アラキ・ヤスサダ - Wikipedia
創られた被爆者詩人アラキ・ヤスサダ 詩に真実は必要か
創られた被爆者詩人アラキ・ヤスサダをめぐる詩という言説(『日本近代文学』第70集


3. マーベル社の規則に違反しているのではないか?

マーベル社では、1980年代から編集者が自分の担当作品で作家になるのを禁じていました。担当外作品では禁じられていなかったので、編集者同士で仕事を回しあうことが行われ問題視されていました。編集者同士で仕事を回しあうことは、能力のある人に仕事が行かなくなるというクオリティーコントロールの面でも問題になっていたようです。
その後、担当外作品でも兼業が原則禁止されました(現在の規則については、よくわかりません)。認められる場合も原稿料は払われないことになっていました。

セブルスキー氏は、他社の作品でライター業を始めました。これも禁止されていたようです。
そして、作品を見た勤め先のマーベル社が、自社の社員だと気付かずに、ヨシダアキラ(セブルスキー氏)にライターの仕事を依頼し、セブルスキー氏は正体を明かさずにこれを受けてしまったのだそうです。
なお、セブルスキー氏は、一旦マーベル社を辞めたあと兼業できる別の契約で復帰したため、ヨシダアキラは消えることになったようです。

セブルスキー氏の場合、他社でしていた仕事を見てマーベル社から以来が来たということなので、発注した編集者がヨシダアキラの正体に気付いていなかったというのが事実なら、兼業禁止が本来目的としていた編集者同士の仕事の回しあいとは違います。
しかし、本来貰えないはずの原稿料を別人を装って受け取ってしまったということになるので、形の上では明らかに規則に反しています。
もっとも、規則に反しているといっても社内規則なので、マーベル社が許せばそれで終わりではあります。